第77回 中国的芸術家 その2

 そのとき、私は寝ていなかったと思います。テニスが終わって疲れていたら、寝ていたかもしれませんが、朝テニスコートに向かうときでしたので、寝ているはずがありません。でも、どうして気がつかなかったのでしょう。バスは満員ではありませんでした。日曜日の朝ですので、人は多いことは多いのですが、混雑するほどではありませんでした。

 よっぽど私が鈍感だったのですが、人に気づかれずに、二つ折りの財布から一枚一枚と抜き取るその技術はたいしたものです。もし見つかったら大変なことになりますので、私だったらその緊張感で指が震え、汗がたらたらと流れ出るのではないでしょうか。それをものの見事に平然とこなし、悠然と立ち去ってしまう。ただただその技術のすばらしさに恐れ入るだけ。まさしく芸術家といってもいいのではないでしょうか。

 ところで、お金はそれほど多くもなかったので、そのすばらしい芸術性に免じてくれてやってもいいのですが、切り裂かれたズポンが惜しい。このズボンは私のお気に入りでしたので、無残に逆L字形に切られて可哀想な姿になってしまいました。今度はズボンを切らないで、お金だけを取るようにしてくれませんか。

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